10月12日(木)トールマン(12)透けてみるアメリカの貧困やら虐待やら

 

 

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 萌え顔がないと映画とはこんなに苦痛なものか。

 という感想メモを振りかえりながら、今夜のレビューはスリラー映画『トールマン』です。

 

 ストーリー

 アメリカ山間部、鉱山の閉鎖された貧困に落ちこむ町コールド・ロックでは、不可解な子どもの失踪事件が多発していた。町の人々は、音もなく消える子供たちを、いつしか「トールマン」が連れ去っていった、と噂しあうようになった。

 ジュリアは慈善家で町の人々に慕われた夫の亡きあと、たった一人で診療所を営んでいた。今日も性的虐待を受けた少女が出産のために運ばれてきた。未成年の少女の子どもの父親は母親の再婚相手。設備も整わない診療所で、ジュリアはなんとか少女の出産を助けるが、生まれた子どもがまともな生涯を送れないことは目に見えていた。

 ここでは学校もなければ、図書館もない。教育施設も娯楽施設も、人々が豊かで安心できる保証は何一つない忘れられた町なのだった。そんな場所で、生まれた子どもたちはここの大人と同じように悪循環の渦に落ち込んでいく。

 

 こんな村から出たい。トールマンの力を借りてでも。

 そう願う少女がいた。

 彼女の名前はジェニー。姉の出産に立ちあった彼女は、ジュリアにだけは心を開く。もっとも彼女は失語症で、言葉が話せない。家庭の劣悪な状況が彼女の心の一部を閉ざししまったのだ。しかし彼女は絵の才能があった。ジェニーはいつも持ち歩くノートに絵を描き溜めていた。そんなジェニーがジュリアに見せたノートのページは黒づくめの男が描かれていた。

 ジュリアが一日を終え、家に帰ると息子のデイビットが待っていた。デイビットはまだ5歳ぐらいで、母親が帰宅するのを待っている。ベビーシッターのクリスティーンと三人で楽しい食事をとり、お酒を飲むとジュリアは気持ちがよくなって寝てしまった。

 しかし、夜中、物音で目覚める。ジュリアが台所に降りていくと、クリスティーンがさるぐつわをはめられ、縛れて床で血を流していた。部屋にデイビッドの姿はなく、家の外に息子を抱いて逃げ去る黒い影が見えた。ジュリアは息子を必死に追いかけるが、謎の黒い影と格闘の末、影は息子を連れて森に逃げ去ってしまう。ジュリアも追いかけるが力つきて、倒れているところを警官に保護され、トリッシュの経営するバーに連れて行かれる。

自分の母親の年齢にあたるトリッシュは怪我をし、憔悴しきったジュリアを見て、着替えを用意し、「落ち着いたら事情を話してほしい」と言った。

 しかし、ジュリアには話せない事情があった。それを察っしているかのように、トリッシュの店に集まる町の人々はジュリアが着替えをすませ、店の外に出るのを待ちかまえていた。ジュリアは町の人々が自分を疑っていることを察知し、間一髪でトリッシュの店の裏口から抜け出し、彼女を捕まえようとする警官のパトカーの後部座席に隠れてその場を去った。たどり着いたのは、町のはずれの廃病院だった。電気だけは通っているのか、大きな建物からぼんやりとした光が漏れている。ジュリアは追手を逃れて建物に入っていくが、そこで彼女を待ち受けていたのは、息子デイビットの本当の母親であるジョンソン夫人だった。

「なぜ私の息子を盗んだの?」

 詰め寄るジョンソン夫人に対して、ジュリアの告白がはじまった。

 

 スタッフ&キャスト

 主演はジェシカ・ビール。ほとんど誕生日が私と同じなのですが、貫録がありすぎて私の10歳上にしか見えない大女優様です。時々映る真正面からのショットが彼女の整った顔立ちを際立たせているのですが、どうも知的美人風味が強いお顔のパーツで、どうにも萌えない私なのでした。彼女をスクリーンで最後に観たのは「トータル・リコール」なのですが、ケイト・ベッキンセイルと女の闘いを繰り広げるエージェント的な女戦士はたしかにジェシカしかできないでしょう。

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こちらがクールビューティであるのに対し、secondヒロイン症の少女にジョデル・フェルランド

 彼女はこの作品でも少女役ですが、これ以前にもホラーな子役を熱演しています。

悪役もこなしていて、『ケース39』ではレネー・ゼルウィガー演じるソーシャルワーカーをめためたに叩きのめす悪魔の子を演じ、『サイレントヒル』ではシャロン役という、これまた呪われた役というかラスボスというか。顔のパーツがもともと丸いので、子ども時代はかわゆかったのですが、今作では微妙に間延びした丸顔がかわいいのか、あれなのかなんとも言えない雰囲気でした。そして、エンディングの私服がしんじられなくらいやぼったいという。絵描きだからしかたないのか(おい、今全国の絵描きを敵にまわしたぞ!)だって、ほぼホワイトのグレータイツに黒のニット風ベレー帽ですよ笑

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(こちらはサイレントヒルシャロン 幼少期は天使のようだ)

(いまは(上)かわいいけど、ずっとこのままおばさんになる気も。。)

 

 

 レビュー

 監督はパスカル・ロジェ

 フランスのスプラッタキング的な位置にいるようですが他作品は未見です。今作は、中間部分で大どんでん返しがあり、このレビューでもプチネタバレしていますが、たしかにあっと驚く展開ではあります。

 物語の中間で主人公の立場も逆転していくのですが、ラストまで見てもなんというか後味が切ない。言ってみれば、主人公は極端な理想主義者であり、極端な理想主義者の行くところ、テロリストの末路と同じであります。で、これ以上言うとネタバレをしてしまうので、気になる方はぜひ映画をご覧ください。

 さて、私個人としてはこの映画の感想は『萌え』がいない映画は観るのがつらいというものでした。

 映画としては、普通の上ぐらいなのですが、どうも絵的に美人だとか、かわゆいだとか、かっこええだとかがなかったです。主演のジェシカ・ピールは私の好きな美人ではないですし、ジョデルちゃんも、端的に言うと職場の先輩に似てるんですよ。笑。それで、気が気がじゃないというかですね。そういう個人的事情がからまった結果として微妙な感想しか思い浮かびませんでした。

 ただ、アメリカの現状というか日に日に貧困層がさらに貧困になるスパイラルは最近読んだ『ヒルビリーエレジー』ですごく身につまされているので、プチネタバレ気味ですが、主人公のしたことってありえるかも、と思います。いわゆるこの作品の主人公たちの住む世界もレッドネック。貧乏白人という言葉が許されるのならば、彼らの物語なのです。

 

 ただし、どんな理想があっても子どもを親から引き離すというのは、難しい問題なのです。

 私の職場は子どもの深刻な虐待を扱う部門でもあるので、子どもが心底親から離れて、二度と自宅には戻りたくないというケースもさんざん見ています。

 でも、子どもの大半はどんなに虐待を受けても、親が子どもを育児放棄して自殺を図ろうとしても、子どもは親をかばうものなんです。

 たいがい、深刻な状況の子どもたちの親は深刻な病や状況を抱えており、ある意味で親から子どもを隔離、保護するのが一番というのは的を得てはいるのです。しかし、子どもはなんだかんだ言っても親を愛しているのです。なんせ、親はこの世でただ一人ですから。

 なので、どんなにひどい親でも子どもから親を奪う、またその逆で子どもから親を奪うことはいい結果を生まないような気がします。

 この物語では、もともと発展性どころかただ落ちるだけの未来しかない子どもたちが親から引き離されるという意味で、プラス面もあるかもしれません。でも、どんなに才能が豊かで能力があっても、親子関係を基礎とする愛情を与えられなければ、そうした能力も伸びるはずがないのです。

 だから、この映画で主人公をしようとしていたことは、絶望的な世界で、その絶望を少しだけ軽減するかもしれないベターな行動でしかありません。でも、そうしたベターでしかない行動は、あまりに私たちの日常とよく似ています。

 トールマンの手を借りて、コールド・ロックから抜け出したジェニーが、今でも町のこと、本当の母親のことを忘れることができないのも、親と自分の育った土地が自分の半身のようなものだからです。

 ジェニーはあまりに成長しすぎた。だから、自分の世界があるとき、切断されたことを自覚してしまえた。そしてそれが心のかせになっている。

 トールマンが子どもを誘拐する所以もここにあります。

 新しい思想を植え付ける土壌は幼少期の心の土の柔らかい時期なのです。

 大人に成長してしまえば、心の土は固くなり、新しい種をまくのはむずかしい。

 とくに、それが生まれ育った場所や育ての親を否定するものの場合は。

 

参考文献

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(レビュー:社会心理学的に人の信念はコミュニティに共有されているものに偏りがち、、であるならば負の連鎖を止めるために、社会のセーフティネットでコミュニティの外の価値観に触れさせることが大事なんだなあ、と改めて実感。著者が幸運にも周囲に助けられて人生の階段を昇れたという下りは、人が人の愛情によって成長していくという心理が語られている。それが、身近な親や世間にしてもらえなかったとしたら、祖父母や遠い親戚、教師でもいいから、誰かひとりだけでも手を差し伸べて、さらに社会がサポートできれば少しは改善されると思う)