9月3日(日)密偵(16)韓国 するめゲームならぬ、するめ映画、密偵!!(ネタバレなし)

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(密偵 日本公開はちょっと先の11月です)

 

 昨日、ラジオで聞いた『するめゲーム』というフレーズが耳に残っています。なんというタイトルのゲームのどんな部分が『するめ』なのか、例によって忘却の彼方なわけですが、とにかく噛めば噛むほど味が出るそんなゲームがあるらしい。

 今回の『密偵」の感想を考えていて、この『するめゲー』というフレーズがぴったりだと思いました。

 とにかくこの映画、傑作であることは間違いないです。

 ストーリーも映像も、役者の演技もすべてが水準以上。それどころか、分析さえ忘れて映像と物語に没入してしまう。テーマ性もメッセージ性も抜群で、難を言えばスパイ合戦のため、ときおり状況が把握しきれなくなる部分がある、ぐらいかなあ、と。

 上映時間が2時間を超えるため、途中緊張感が途切れてしまうのですが、多少ぼーっとしてしまったとしてもラストの数分を観れば状況は理解できます。

 というわけで、傑作なのですが、具体的にどういえばいいか。つまり、一言で言い表せない類の感動がこの映画にはあります。あえて言えば、5回ぐらい観て言語化できるかなあ、というたぐいの感動です。

 本音を吐くと、一度見ただけでは理解できない複雑なコンゲームということなのですが。笑

 

 実際、ストーリーも物語背景も単純なのですが、敵味方が入り乱れるため、状況が把握できなくなるです。しかし、繰り返しになりますが、ラストを観れば…というわけで、ぜひ多くの方に見ていただきたい映画です。これは傑作です。

 

 ■ストーリー

 時は1920年の韓国。

 10年前に韓国は、大日本帝国に併合され、日本総督府の統治下にある。

 世界史に言う日韓併合だ。

 その日から韓国という国はなくなったのだ。

 そう、それは認めねばならない。

 元朝鮮人でありながら、現在は日本警察のイ・ジョンチュルは足早に月夜の道を急いだ。

 向かうは郊外の寺院だ。

 そこに、我々の敵、ジャンオクがいる。

 本名、キム・ジャンオク。

 彼は武装独立運動団体「義烈団」のメンバーの一人だ。

 日本総督に対するテロ資金確保のために、寺に美術品を持ち込んで金に換えようとしたらしいが、交渉相手を間違えた。

 ジャンオクが美術品を売りつけようとした相手は見た目は寺の僧侶だが、義侠心どころか、一般的な良識さえ持ち合わせているかどうか怪しい生臭坊主だ。

 目下のところ、日本警察のブラックリストの上位にランクインしている「義烈団」であれば、資金繰りにもう少し気を使ってもよかっただろうに。

 よりによってなぜあんな生臭坊主をビジネス相手に選んだのか。

 もっとも、こちらとしても手の施しようがないほど恥知らずな人間でなければ、日本統治下の朝鮮では生き残れない。

 だが、よりよってあの坊主とは。

 ジャンオクも、目が曇ったか。

 ジョンチュルは知らず歯ぎしりをした。

 だが、これはおかしなことだった。

 彼にとってジャンオク、義烈団は宿敵である。

 日本総督府の統治下にある警察官の署長である自分が彼らに同情するのはおかしなことだ。

 ジョンチュルは今度は拳を握りしめた。

 いや、わかっている。

 本当は彼らに対して自分が心底敵だとはみなしていないことを。

 なぜなら、彼ら義烈団が敵視する日本総督府こそ、この朝鮮を踏みにじった侵略者だからだ。

 もし、10年前の併合事件がなければ、ジャンオクと俺は同胞のままだった。

 そう、本当の敵は日本人なのだ。

 だが、だからと言ってどうすればいい。

 朝鮮という国は日本に支配され、朝鮮人は自分も含めて生きるために彼らに屈服せざるをえなかった。

 でなければ、とっくに死んでいただろう。

 祖国。それは、大事かもしれない。

 しかし、占領されてしまった今、祖国が何をしてくれるというのだ。

 俺は言語を奪われ、他国の言いなりになって同胞を裏切り、密告した。

 そんな俺は祖国にとっては裏切りものなのだ。

 だが生きるため、強者について何が悪い。

 祖国はもはや、ここにはない。

 そんな絵にかいた餅も同然のものにこだわるほうが異常だ。

 ジョンチュルは自分に言い聞かせた。もう何度目だ

 深いため息をつきそうになるが、何度でも揺らぐのだ。

 揺らがないのは、そうあいつぐらいのものだ。

 ふいにジャンオク顔が脳裏に浮かんだ。蔑むようなそれでいて哀しげな眼。

 それは、最後に自分に向けられた奴の表情だった。

 そのとき、ふいに現実に引き戻された。

 家々の連なる細い路地の先に漆喰の扉が現れたのだ。

 扉の向こうに異様な殺気が満ちている。

 

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 それもそのはず、音を立てずに扉を開けると、広い中庭いっぱいに銃をかまえた憲兵が立ちはだかっていた。

 銃身の先はすべて同じ方向を向いている。

 その先にあるのは小さな納屋だった。

 点々と地面に血痕が落ちている。

 あの場所に逃げ込んだらしい。

 ジョンチュルは息を飲んだ。

 すでに、ジャンオクは憲兵を何人か射殺している。

 刑は免れないだろう。

 だが、ここで死なせるわけにはいかない。

 自分なら、かつて盟友であった自分ならジャンオクの命だけは助けることができるかもしれない。

 ジョンチュルは憲兵に向かってジェスチャーをすると、納屋に近づいた。

 憲兵が納屋から音もなく離れていく。

『ジャンオク、ジョンチュルだ』

 そっと声をかけ、納屋の扉を静かに開ける。

 納屋の奥に黒い人影が座っているのが見えた。

 影に向かって片手をゆっくりあげ、銃を地面に置いた。

 納屋の奥にジャンオクがいた。 

 何年ぶりになるだろう。

 ジャンオクの頬はこけ、異様な光を放つ双眸は以前会った時以上だ。

 手負いの獣……ジュンチュルは息を飲んだ。

 静かに近づくと、ジャンオクの足元に何か赤黒いものが落ちているのがわかった。

 奴の親指の先だと気づくのに数秒かかった。

 ジャンオクは鋭い眼光と銃を彼に向けたまま言った。

「我々の指導者は祖国を裏切り、お前は同胞を裏切った」

 ジョンチュルは彼の視線を受け止めて言った。

 「まだ独立を勝ち取れると思っているのか」

「お前は仲間を裏切り、いい暮らしをしている」

「我々は沈没船だなんだよ、ジャンオク」

「確かに」

 ジャンオクは唇端を少し上げて歪んだ笑みをつくってみせた。

「密告者は沈没船から一番先に逃げるからな」

 視線の先にはジャンオクの親指の先が落ちている。

 赤黒い血にまみれ、土にまみれ、もうあれは二度と動かないだろう。

 だが、目の前のジャンオクはまだ生きている。

 こいつをここで死なせるわけにはいかない。

 ジョンチュルはそれが欺瞞でしかないことが分かっていた。

 なぜならここで仮に奴が助かったとしても、義烈団のメンバーである奴は持っている限りの情報を吐くまではけして拷問から解放されないだろう。

 それは生き地獄以上のものとなるだろう。

 ジョンチュルは一瞬、自分が何がしたいのかわからなくなった。

 むしろ、奴にとってはここで自決したほうがよほど楽なのではないか。

 だが、口からでてきたのは正反対の言葉だった。

「ジャンオク、お前はここで死ぬべきじゃない。一緒に来てくれ 

 彼の言葉にジャンオクは皮肉な笑みを浮かべた。

 彼は構わず言った。

「頼む。一緒に来てくれ、ここで死ぬな」

 ジョンチュルは、言いながら本気でジャンオクを死なせたくないと思っている自分に気づいた。

 頼む、その銃を下ろしてくれ。

 祈るような気持ちで一歩、ジャンオクに近づこうとしたときだった。ジャンオクがふいに言った。

『「は密告者の中では生きられない、ジョンチュル」

 奴は銃をゆっくりとジョンチュルから放すと、自分のこめかみにあてようとした。

 ジョンチュルは隠していた銃をとりだし、ジャンオクに向けようとした。

 だが遅かった。

 ジャンオクが言った。

「韓国よ、永遠なれ」

 言葉が終わると同時に乾いた銃声が納屋に響いた。

 ジャンオクのこめかみから脳症が飛び散り、納屋の壁を汚した。

 

 

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(いきなり、鶴見先生の写真ですが、日本総督側として出演です 

 見よ、この悪そうな顔w)

 

 

 ■レビュー

 この調子で描写しているとレビューにたどり着かないので、ストーリーの冒頭部分で切ってしまいましたが、このあと、主人公のイ・ジョンチュルは義烈団の残りのメンバーと彼らが爆弾で日本総督府を襲撃しようとするテロを阻止するため諜報活動を開始します。

 しかし、ジョンチュルの上層部は日本総督府

 かつて生き残るために同胞裏切ったジョンチュルは心の底からスパイ活動をする決心が揺らぎ続けます。

 一方レジスタンスである義烈団もまた、ジャンオクの資金繰りが失敗したため、新たな資金工作のために、写真館と古物商を営むリーダー、キム・ウジンがアクションを起こします。

 テロ工作のために一刻も早く資金を作る必要がある義烈団、そして立場が元朝鮮人であることから、徐々に危うくなるジョンチュル。

 二人は赤の他人のふりをして互いに探りを入れるために会うことになりますが、その二人をさらに密告しようとする二重スパイがおり、結果として二人とも立場が危うくなります。

 そんな中、義烈団は首謀者であり、警察にとって最大のターゲットであるチェ・サンが自らジョンチュルを仲間に引き入れようと姿を現します。

 

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(チェ・サン役のイ・ビョンホン 安定のかっこよさ、そしてカリスマさく裂!!)

 

 日本人に対する怨恨を募らせるジョンチュル、そして同胞への同情と共感は押しとどめようとしても揺らぎ続け。

 やがて、義烈団のためにジョンチュルは危険を犯して二重スパイをすることになります。

 もはや後戻りはできない。綱渡りをはじめるジョンチュルは果たして同胞を売る日本人の手先として生き延びられるのか、それとも身を挺して同胞の仲間を援護する二重スパイとして生き延びるのか。

 

 というのが、あらすじになります。

 

 

 なんというか、この映画は、本当に熱く感動します。

 祖国や、同胞という言葉、もはや日本人には肌馴染みがない概念じゃないかと思います。

 もともと、この国民国家の同胞意識は平時ならばなんのことはない空気みたいな存在で、外部にそれが侵害されたときのみ意識されるいやらしい概念です。

 とはいえ、現在のところ国民国家という国単位のアイデンティティを超える概念というか括りを我々人類は持ち合わせていないわけで、これが戦争の種になったり、平和の礎になったりもするわけです。

 ですが、人は感情で理解をする生き物であり、祖国や同胞という考えは侵害された側ではないとわからないと思うのです。

 日本人として生活していると、例えば外国人の中に放り込まれたり、海外に行かないと、自分が日本人だと意識することってまずないわけですが、それが言語が通じないとか、円が安いとか、ユーロが高いとか、その程度ならまだしも適度な屈辱感ですみますが、これが日本人だから犬だとか、日本人だから使えないとか、国家レベルで存在を否定されたら、これは個人攻撃されるよりももっと深刻なダメージを受けるはずです。

 それは、国家や人種で否定されると、個人の努力ではどうにもできない部分に攻撃が加えられるからです。

 このどうしようもない感、さらにそれを共有する『同胞』がいたら、挫折感も怒りもいっそう募るだろうし、仕返しをしてやろうという気持ちも集団心理としてとんでもないことになるはずです。

 こうした怒りを根底に持つレジスタンスの生き方は余りにも切なく、最も祖国を大事にする人間が祖国を捨てた同胞から拷問を受け、冷遇されるという残酷極まりない扱いを受けます。

 しかし、彼らはとうの昔に個人の幸福や恐怖というものを放棄し、自分が何をすべきか、それだけを信念に行動を続けます。もう、なんて言ったらよいのか……です。

 悪いのは同胞ではなく、この場合侵略者です。つまり、この映画では日本人。

 同じ国で生まれ、同じ言葉を使う同胞が、殺し合い、裏切りあいをすることほど悲惨なことはありません。

 日本が犯した罪、そして20世紀の人類が犯した罪を二度と起こさないようにしなければ、そう思わせてくれる映画です。

 と、同時に祖国や、同胞という戦争の引き金になる哀しい概念にまだまだ人類は縛れていることを突きつけられる 逃げ場のない物語でもあります。

 美しい死なんてものはやはりなくて、レジスタンスの人々はみな個人としての幸せ、恐怖を捨て去り、個人として祖国のために何ができるかと思いながら闘争に身をとおじていきます

 その生きざま、死にざまは、愚かで同時に崇高で、くやしくもあり、己以上の大きな幻想を見つけた彼らなりの幸せでもあり、それをみるとき、嫌悪と羨ましさと複雑な気持ちになるのです。

 こんな複雑極まりない感情を喚起させてくれる傑作、11月公開の『密偵』ぜひ、お楽しみに。 

 

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(主演ソン・ガンホ(イ・ジョンチュル役)&コン・ユ(キム・ウジン))

(現場はとってもなごやかに見えますw二人の演技、素晴らしかった~w)

(この場面は初対面で二人が探り合いつつ酔っ払うところ。韓国人酒、めっちゃつよい!!)