7月30日(日)人狼JIN-ROH(2000)押井守監督と神山健治監督をつなぐ、美しく悲しい物語2/2

 この映画、多面的な見方があって、恋愛映画としてもよくできているし、政治的陰謀、スパイ大作戦としても楽しめます。

 もしくは、アニメーションの世界観と人物モーションの緻密さを研究しても充実する、そんな懐の深い作品です。

 しかし、この映画、押井さんが関わった作品にしては、世界観よりも男女の悲恋が伝わってくる仕様になっています。

 細かい設定も効いいます。赤ずきんと狼の物語のバッドエンドをそのまま伏と圭に重ねたり、人を傷つけることでしか前に進めない狼である兵士の名称を「ケルベロス」という犬の名前にしたり、見ているほうは狼と赤ずきんの物語がハッピーエンドにならないことは知っていますしね。

 いやもう、ぼーっと見ていてもこの二人の切なさは伝わってきますし、なんでしょうね。

 こんな世の中なんだから、フィクションぐらい明るくしてくれよ、という気持ちになったりさんざんです(笑)

 でもですね、この映画を見て、いまさらながらの発見もありました。

 それは、この映画が押井さんに対する好きと神山さんを好きの中間の作品になっていると気がついたからです。

 私が押井作品を好きな理由は限りなく自分の日常に近い異質感のもつ世界観だったわけですが、それともう一つ、ストーリーの核にある政治的陰謀ってやつが私はどうやら好きみたいです。

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(押井監督作品:哲学的でしゃべってばっかだけど、ちゃんとアクションもあります)

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(神山監督のTVシリーズ。刑事ドラマをモデルにしただけあって、エンタメアクション満載w)

 

 神山監督がこのあとメガホンをとった「攻殻機動隊SAC1 笑い男」はまさに政治的陰謀を地でいくストーリーですが、この監督で神山さん信者になったのも過言ではないのですが、逆を言うと、神山さんの作品でこれ以後好きになったものが実は見当たらないのです。

 「精霊の守り人」(原作シリーズは読破して大好きです)「サイボーグ009」「東のエデン」などもさらっと見ましたが、どうもひっかかってこない。

 おそらくアニメ絵的にはすごいことをやっているのかもしれませんが、ストーリーが入ってこなかった。ようするに「観たのに印象に残らない」んですね。

 それじゃ、攻殻笑い男」の何がすごかったのか。

 これは、もちろん、政治的陰謀の二転三転するサスペンス性と、キャラクターの群像劇、唯一のお笑い担当タチコマ連の自己犠牲による個性の獲得成長ストーリー、忘れるところだった今となってはネットへのダイブなどなど。

 陽性のエンタメテイストが満載でセリフが文字起こししないと理解不明な深さぶりも魅力。好きにならないほうがおかしいという。それでも、ふいに押井さんの作品に戻ってくるのは、本来は、この「笑い男」のエンタメと衒学趣味ももとをただせば押井さんの狂おしいほどに深い懐に入っていたものなのだと無意識に気づいていたからかもしれません。

 そのことに、長い間気がつかなかったのは、これもまたうかつなことです。

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(ラブ・9課課長荒巻 まじでこんな上司だったらいくつ命があっても足りない)

 攻殻における、荒巻課長のハイパーな政治的考察は今回の人狼で登場する政治力の高い首都警官僚・安二屋警備部長と完璧に重なりますし、安二屋部長の大局からものをみる態度は「これ9課の荒巻じゃん」といまさらながら驚愕。

 政治的陰謀というより、対立が「人狼」の物語の動きを決めるダイナミズムになるのですが、この対立はまさに現実的で私の所属する自治体組織などではファンタジー視できないほどです。

 でもだからこそ、リアルっぽくて面白い。

 押井さんはもともと現実と幻想の境目、夢と現実、電脳世界と現実の境界をずっとその根底にテーマとして持ってきたクリエイターで、そのテイストがより衒学的に表現されて「アヴァロン」になり、エンタメのベクトルに進化させたのが神山監督であると私は認識しています。

 そのどちらもが私は好きなのですが、その中でも私の陸続き感のある世界をずっと見させてくれる押井監督の作品はやはり定期的に舞い戻る聖地のようななのでしょう。

 というわけで、人狼

 メモをとりながら、見ることになりますが、美しさと哀しさの織り込まれた男女の恋に興味がある方はぜひともご覧あれ。