7月16日(日)映画レビュー:殺人の追憶(03)

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 耐えがたいほどリアルな農村と昭和の原風景が、未解決連続殺人事件を切なく包み込む。

 

 この作品は実話が元になっています。

 1986年に韓国の農村地帯で10人の女性が被害者となった連続殺人事件を題材にしたフィクションで、犯人は未解決。

 映画でも事件は解決せず、なんとも言えない後味を残して幕が閉じます。

 

 地平線まで続くたわわに実った稲穂が広がる田園地帯の側溝で、女性の遺体が発見される。

 地元出身であか抜けないパク刑事はスポーツ刈りに柄シャツにブルゾン姿。

 事件現場は両サイドが稲刈り間近の田んぼだ。

 舗装のされていない農道を時速十キロ以下で走るテーラーがぼろいエンジン音で近づいてくる。

 そのテーラーの二台にだるそうに腰かけているのがパク刑事であり、その後ろを虫かごを持った子ども達がわめきながら、追いかけてくる。

 みな、赤茶けた服装で、まるで日本の昭和の風景そのものだ。

 パク刑事は現場でテーラーを降りると、灰色のふたのついた側溝に降りた。

 落ちていた鏡で暗がりに光を当てると、白い女の縛られた体が黒い側溝に浮かび上がる。

 横たえられた全裸の女には黒アリがたかり、光を当てるとアリたちは驚いたように女の遺体の肌を逃げまわった。

 

 遺体は地元の女性だったため、パク刑事は片っ端から関係者を洗いはじめた。

 しかし、手がかりが何一つみつからないまま、第二の被害者が出てしまう。

 手足を縛られ、強姦された女性の死体はやはり地元出身者。

 そんな中、事件解決のためにソウルからソ・テユン刑事が派遣される。

 足でかぜぎ、脅して証言させるパク刑事とは対照的に客観的に捜査をしようとするソ刑事とパク刑事は当初からソリが合わない。

 そしてそんな二人をあざ笑うかのように次々に女性が殺害されていく。

 

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(タイトル:殺人の追憶  もう、この風景近所でしかないというかね、、)

 

 この映画はですね、なんというか日本人の田舎出身者にとってはものすごくリアルな世界観で、それがリアルを通り越して、背中がかゆくなるといか憂鬱にさえなる力を持っています。

 

 1980年代の大韓民国の農村部が舞台なのですが、とにかく地平線までつづく田園地帯や、舗装されていない道路を走る耕運機、農村エキストラたちの冴えない赤茶けた服装、泥、低い建物、暗い室内、地味な調度品、黒電話に事務机。

 なんというか、1980年代生まれの私にとって、はっきりと覚えていないわりには自分の幼少期にとられた写真の風景に似すぎているのです。

 というか、そのものであり、警察の打ちっぱなしのコンクリートに黒ずんだボイラー施設のある尋問室を見ていると、自分の記憶と陸続きのような切ない気持ちにさせられます。

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(警察の事務机。。いま私が使っているのと同じじゃん。。。)

 

 

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(この風景を切ないと言わずしてなんというか。。)

 

 つまり、フィクションに対する賞賛の混じった「リアル」を通りこして、肌馴染みしすぎた気持ち悪さのほうが、しっくりくるというか。

 なんだかこう、自分の子ども時代のお金のなかった時代を思い出すというか。

 とにかく日本の農村地帯のあか抜けなさと発展しなささがダイレクトに見える美術になっており、背中がかゆくなります。

 

 一方、そんなあか抜けない田園地帯でばたばた捜査をする田舎刑事のパク・トゥマン役のソン・ガンホは、まさに田舎のマイルドヤンキーというか完全なヤンキーを絵にかいたような神演技です。

 相対する都会的なエリート刑事ソ・テユンを演じるキム・サンギョンもまた、都会的と言ってもそうでもない感じの仕様で、これまた田園地帯の中に溶け込んでいます。

 

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(左 一応都会からきたという触れこみのエリート刑事と 右 地元ヤンキーあがりの刑事)

 

 捜査の方針だけは対立する二人ですが、ソ刑事の現場保存なんかも現代のCSIなんかと比べると隔世の感があり、いずれにしてもローテクな感じなのです。

 

 そういうわけで、捜査方法は見ていても歯がゆくなるほど適当な感じなのですが、1980年代の田園地帯の作りこまれた舞台設定の中で、彼らのほどよい抜け感のある演技は見ていてかなり気持ちのいい仕上がりになっています。

 韓国人の平たい顔に妙に親近感がわくというか、この二人の刑事だけではなく、

 有力な容疑者として当初にさんざんリンチされるクァンホ役のパク・シノクも知能に障害のある青年の演技が本当に素に見えてぐっときますし、さんざん迂回して辿りついた限りなく黒に近いグレーの容疑者ヒョンギュ役のパク・ヘイルは端正な童顔美男子で、もう見るからに「殺りました」顔であり、画面に登場してからゾクゾクしっぱなしです。

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(限りなく漆黒にちかいグレーのパク・ヘイル。この顔で殺ってないとかないでしょう)

 

 この二人の容疑者も過剰な演技にはまったく見えないくせにリアルという不思議な演出で、俳優陣はそれぞれにとってもいい味を出しています。

 ただ、ストーリーは犯人逮捕に至らず、当初は冤罪を誘発するパク刑事の適当な暴力尋問を批判していたソ刑事が、自分が懇意にしていた少女が殺害されるラストになり、ぶちキレてしまい、ついに容疑者ヒョンギュ(上のパク・ヘイルが演じています)に銃を向けてしまいます。

 こうしたセブン的なラストなのですが、ここはパク刑事が止めて事なきを得ますが、結局頼みの綱のDNA鑑定からも抜け出し、犯人と思われるヒョンギュは逮捕に至りません。

 

 結局、20年後の03年、パク刑事は警察を辞職し、実業家として成功していますが、ふいに営業の途中で第一の被害者の発見された田園地帯のあの側溝に立ち寄ります。

 彼が側溝を覗き込んでいると、学校帰りの少女が彼を見かけ

 「この前もおじさんとおなじように側溝をのぞいていた男の人がいた」と言います。

 なんと、その男性は「自分が昔ここでしたことを思い出していた」と彼女に言いました。

 パク元刑事が、少女に「どんな顔の男だった」と聞くと、少女は「普通の顔」と答えます。

 

 普通の顔。

 

 

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(ちょっと瑛太風元祖普通(ありがちなアジア人)の顔パク・ヘイル)

 

 さてさて、少女のこの発言が、物語のテーマをたった一言で物語っているような気がします。

 この映画では1980年代の大韓民国を舞台に連続殺人事件という暴力がストーリーの核となってしましたが、

 暴力はそれだけではなく、刑事が容疑者に振るう暴力、国家権力が国民にふるう暴力、男性が女性に振るう暴力、そして抑圧された容疑者が刑事に復讐する暴力が負の連鎖のように覆っています。

 ディティールだけ見ると、田舎で繰り広げられるコントラストの効いた二人の刑事のドタバタコメディの要素もあるこの映画ですが、少女のラストのセリフが投げつけてくるもののすさまじさに覚醒させられます。

 古きよき故郷を想わせる田園地帯で起きた未解決事件。

 美しい牧歌的な風景に陰惨な歴史が垣間見えたときに、耐え難いほどの現実との陸続き感が押し寄せてきます。

 ここら辺は、私が沖縄に行くときに感じる美しさの中の悲しい歴史、現在進行形の事実を重なり、なんとも言えない気持ちとも重なります。

 そういうわけで、映画としてはかなり重層的な味わいのある作品なのでおすすめです。

 

 さて、最後になりましたが「殺人の追憶」の監督は、「スノー・ピアサー」最新作では「オクジャ」のポン・ジュノ監督。

 

 03年のこちら作品で一躍有名になった監督ですが、この作品で垣間見える舞台演出と俳優陣の見せ方は、ほかの作品でも期待できそうです。

 というわけで、しばらくはポン・ジュノ監督にロックオンしていきたいと思います。