7月8日(土)修羅場経験者のやさしさと強さ 3/3(こども時代に出会う大人)

 承前1/3

 承前2/3

 

 これには事情があり、4月に採用したばかりの大卒の新規職員がわずか二か月で「辞めて」しまい、ある小学校の事務が不在となり、

 その分を管内の学校の事務員が持ち回りでさばていていたという経緯がある。

 この早期すぎる新卒事務員の退職は管内の学校にとっては大打撃で、

 一日も早い補充員がのぞまれたが、結局、代打が不在のまま、

 事務の経験もあり、有能なsさんに白羽の矢が立った。

 

 事務はたしかに大切なのだが、Sさんみたいな人間的な魅力のある人間を事務程度の仕事に据え置きするのは、ほんとうに惜しい。

 惜しいけれど、しかたがない事情だ。

「まあ、いい経験だと思ってやるしかないね」

 私はわざと軽く言った。

「ほんとです」

 Sさんはしゅん、という音声が聞こえるくらい肩を落とした。

 だが次の瞬間、sさんは顔をあげ微笑した。

 それは私の好きな困ったような悲し気な笑い顔だった。

「とりあえず12月までがんばるわ」

「そうだよ、何事も経験。小中学校行かなかった分、これから何度も学校行けるじゃん」

「それ、しゃれになってないけどね」

「いやいや、子どもは救われると思うよ」

「そうですかね」

「そうでしょう」

 私はSさんの肩をたたくと、Sさんはゆっくりと立ち上がった。

 だべってる時間は終わりだ。

「今度、飲みにいきましょね」

 sさんがうらめしそうな私を見る。

「はいはい」

「まじですからね」

「はいはい」

 sさんを見送りながら、早く彼女が本来の仕事に戻れればいいと思った。 

 彼女が十代を生き延びたことで、今の十代が救われることは、確かだからだ。

 そのために、彼女がもっと子供たちとかかわれればいい。

 人はこども時代に出会った大人で人生がかわるし、

 それは、やっぱり真実だと思う。