7月8日(土)修羅場経験者のやさしさと強さ 2/3(こども時代に出会う大人)

承前1/3

 しかし、声もでかい、性格もさっぱりしているSさんがどうして家庭の悩みを抱えている子とうまくできるのか、私は長い間わからなかった。

 学校という空間には当然のことながら、

 こども好きばかりの大人がいるわけではない。

 自動的になれる職業ではないのに、安定しているというだけで教師になり、人間性というスペックを試されて、こどもから総スカンをくらう教師さえいるのはいつの時代も変わらない。

 プロの教師でさえ、こじれたこどもを扱うのは至難の技であり、sさんがそれをできるのが不思議でならなかった(ちなみに私も塾の講師、小学校での授業経験があり、この仕事がさまざまな能力を要求されるのは身にしみています) 

 あるとき、不登校の子の話をしていたときにsさんが「私も、小、中って行ってなかったからさ」と言ったので、びっくりしたことがある。

 私の経験から言って義務教育の段階で学校に行けなかった(行かなかった)場合、そのこどもはたいがい家庭に重篤な問題を抱えている。

 実はsさんの家庭もその例にもれず、家庭内暴力のさく裂する環境だった。

 当時、母親は同居する夫(sさんの実父)の前妻の息子に暴力を振るわれ、顔にひどい痣をつくるほどであり、

 sさん自身も身内である腹違いの兄に殺すぞ、と脅さつづけという。

 では父親はどうしていたかというと、腹違いの兄というフレーズから想像していただきたいが、その父親こそが前の家族を捨て、Sさんこそ不倫駆け落ちの際にできた二度目の子どもなのだった。

 ようするに、sさんの家庭はすさましい経緯をたどって形成されたのだ。

 一方、そんな話をさらっとするsさんは、あっけらかんとしている。

 話を聞けば、なるほど、そんな状態では学校なんて行けるはずはなかったな、と思うのである。

 

 しかし、sさんがそのままドロップアウトしなかったのは、

 高校時代に出会った恩師のおかげだった。

 口の悪いその恩師とは今でも酒を酌み交わす仲らしく、

 その出会いのおかげで彼女は成長し、教育をサポートする側の人間になった。

 この手のタイプはあのヤンキー上がりの熱い、指導者というGTOカテゴリーにみごとにはまる。

 

 昨日も私は午後のけだるい時間帯にsさんが来たので、

「最近、どうよ」

 と、聞くと

「いや、今日も中坊を励ましちゃったよ」

 とのこと。

「『先生、俺エロ本いっぱい読みたいんだよ、変態かな?』って本気で悩んで聞いてきたから、今のうち、いっぱい好きなことしときな。なんでもやりたいことやっておきな、じゃないと大人になってへんなはじけ方するからなって言ったら、すごい喜んでた」

「よりによって、エロ本か。ま、五十、六十になってもエロ本で浮かれてもやばいからね」

 と、私。

「なんかさ、中学生ってこどもだよね。それくらいのことで真剣に悩むんだから」

「いいことしてるね。慈善事業の極致だわ」

 私の言葉にsさんはがっくり肩を落とした。

「んー、でもこれから大変だわ」

「だね」

 私はしみじみうなずいた。

 というのも、実はsさんの授業サポート員は6月末で終了してしまい、7月からは学校の事務補助ではなく、正式な事務員となってしまったからだ。

 

hagananae.hatenablog.com