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4月1日(土)第8回 恋はよいもの、はかないもの(男ともだちは、男ともだち)

恋愛コラム:恋はよいもの、はかないもの

      男ともだちは、男ともだち

 

 好きになれたら、よかったのに。

 と、別に後悔していないのだが、なぜ好きになれないのか、素朴に思う関係は多々ある。

 

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 (↑ あの頃の寒空によくにた海沿いの道)

 

 高校最後の年、つまり受験生のとき、私は第一志望に不合格となり、まだ卒業まで登校日が何日か残っていたにも関わらず、学校に行く気にならなかった。

 しかし家にもいたくなかった私は、同じようにまだ受験の結果が出ておらず、常日頃から高校に通っていないある男ともだちの家に行くことにした。

 行くと言うより、転がりこんだ。

 

 今でも思うが、彼とはあの頃いつも一緒にいた。

 学校をさぼって自転車の二人乗りをして、近所をうろついたり、塾で一緒に勉強をしたり、よく周囲からは「つきあってるの?」と言われたが、心底そういう気持ちはなかった。

 私は別の男の子に恋をしていた。

 おそらく、彼もそうだったと思う。

 私たちは一緒にいたけれど、それは居心地がいいと思う反面、ときめきがまったくなかった。

 私たちはよく似ていたのかもしれない。

 彼は寺の息子だった。

 朝に弱く、頭がよくてやさしくてのんびりしていて、学校は単位ぎりぎりで、そのくせ成績はトップクラスで、医学部を目指していた。

 私はその日、第一志望の不合格を知らされて、もう学校に行く気もおきず、彼に電話をすると、彼は眠そうな声で「いいよ」とだけ言った。

 寺の本堂に入ると、彼は少し遅れて、お茶を持ってきてくれた。

 起きたばかりらしく、眠そうだった。

 それから、少しはなしをした。

 携帯に友達から電話があった。

 その日は、卒業式の予行練習だった。

 担任が心配している、という内容で、私は高校のすぐ近くにある彼の家にいるとだけメールを返した。

 そのとき、私は目標をなくして、将来もまっくらで、ひたすら暗い気持ちだった。 

 彼はそのとき、なんにか言ってくれたのだろうか。

 ぜんぜん覚えていない。

 覚えていないけれど、いつものように私を外に連れ出してくれて、その日は夜まで一緒にいてくれた。

 大学を卒業してからもたまに会うことがあった。

 今でも、彼となぜ恋愛にならなかったのだろう、とときどき、思う。 

 なぜ思うかというと、彼とは恋愛は無理でも、夫婦としてならつきあえたかもと思うからだ。

 私たちはじめから枯れきった夫婦のような関係で、ときめきも未知の楽しさもなく、落ち着きだけがあった。

 もちろん、はじめから落ち着いていたのでは、夫婦どころか恋人にもなれないかもしれないのだが。

 

 二人でいるとき、彼はよく立っているのもおっくうと言った調子で私の肩にひじを乗せていた。

 私はよくその重さによろめいた。

 今でも思い出すのは、彼の自転車に乗せてもらったときの風の冷たさと、彼の背中の暖かさだ。

 あのつらいとき、私は異性に自然に甘えることができて、また甘えられる男ともだちがいたのだと思うと、本当に私の十代は幸せだったのだな、と思う。

 いまは毎日が、ひとりで、昔のことや今のことを静かに考えているばかりだ。