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4月1日(土)第7回 恋はよいもの、はかないもの(20代最後の恋)

4月1日(土)第7回 恋はよいもの、はかないもの

 恋愛コラム:20代最後の恋

 

 幸せにしてあげたかった人がいる。

 でも、もう思い出の中の人でしかない。

 そういう、人がいた。

 

 雨が強く、台風が近づいている7月のことだった。

 その日、私は彼を駅に送っていくために車を駅のロータリーに駐車していた。

 彼は東京の人で、一ヶ月に二回ほどしか会えなかった。

 彼の不定期の休みのたびに私は休暇をとり、彼は一泊をして帰って行く。

 夕方に来て、次の日の夕方には東京に戻る。

 

 その日は、駅につくとすでに風が強くなっており、雨足が強くなっていた。

 彼が車を出て行く数分前だったと思う。

 父から連絡があった。

 台風がくるから気をつけろよ、という電話だった。

 父との電話を一言、二言、返事をして切ると、彼が不思議そうに私を見ていた。

 内容を言うと、さらに不思議そうな顔をして言った。

父親ってそういうことで、心配するんだね」

 今度は私がきょとんとする番だった。

 今思えば、彼とは境遇が違いすぎた。

 それもまた、彼と私が別れる原因だったのかもしれない。

 彼は中学卒業と同時に実家を出奔した。

 それは父親からの虐待に近い扱いを受け、家にはいられないと思ったかららしい。

 彼の言葉の端々に父親に対する憎しみと悲しみが満ちていた。

 このとき、私の父親が娘を台風ごときで心配して電話をするものなのか、と思ったらしい。

 私にとっては当たり前のことだが、彼にとっては驚くべきことだった。

 彼の家族の愛を知らないけれど、世間に出て、親代わりの人々に成長を助けられた、その境遇が私には生きる力にあふれ、まぶしくて、尊敬できた。

 そんな彼についていきたいと思った。

 できることなら、彼を守ってあげたかった。

 けれど、私には力がなく、彼にも力がなかった。

 私たちは二人で生きる力がなかった。

 

 今でも、どこかで彼は元気に仕事を続けているのだろうと思う。

 ときどき、雨が降ると雨粒でにじむ風景をみるたび、彼が車のドアを出て行く姿を思い出す。

 寂しくて、たくましくて、大好きだった彼。

 幸せにしたかった彼。

 でも、もう思い出の中にしかいない彼。

 

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(20代後半の頃の私。今よりもきっつい顔。

 しかし、性格はいまのほうが、、(笑)