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⑧4月16日(土)ハーモニー(小説)レビュー

 

 

レビュー:映画でもちょこっとレビューしましたが、伊藤計劃の「ハーモニー」です。

今回再読しましたが、印象は変わりませんでした。

伊藤計劃の文章もストーリーもすごくわかりやすくて、彼の文章力、ストーリーテーリングの技術力の高さは本当にすばらしい。文章も流れるようで、何度も読みたくなり、実際、何度も読んでいます。

内容は、というと8年前のせいか、なんというかありきたりというか。

ちょっとなつかしい感じかな、と思います。

この物語で一番しっくりこないのは、「誰一人まともな人間がいない」というところにつきます。みんな頭でっかちで、理論武装を展開しながら、議論をしている、そんな小説ですね。

 

この物語で私が気になったテーマというかスレッドは以下の二つです。

  1. 極端から極端にいきすぎる。

大災禍という核戦争になってしまった根拠がそもそも薄い。

人間はたしかに理性的ではない存在でもあるが、それでも理性的であろうとする一端はないのだろうか。

この物語の前段となる「虐殺器官」において、大災禍は発動してしまったが、その説明もそもそもあいまいだった。

人間は非理性的存在で、人類は制御しないと全滅する。

だから、制御する。

極端すぎるのはいいが、妥協点をみつけて、苦労しながらもその日をやっていく、そういうのがリアルなんじゃないだろうか。

そのリアルを持ち合わせた人間、向日性といってもいい、明るい人間、言い換えればあくまでも清濁併せ呑む正義を司る人間がでてこないせいで、ストーリー全体が耽美的で盛り上がりにかける。

 

  1. 人間の感情、意志、報酬系をもっと突き詰めてみたい。

感情はそもそも価値判断をするために、生物が獲得したものである。

AIが価値判断をする上で、なにが「快」であるか学ぶことが困難だという記事を読んだことがある。この物語では「快」が欲望であり、その欲望の先に非理性的な大災禍、互いに殺し合う状況があるというが、その通りであると思う。

それにしても、感情、意志に変わる価値判断が意志の喪失というのはフィクションであるにしてもぴんとこない。

意志というのは何であるのか。生存のために獲得した価値判断である感情にとりかわる高次の機能は、意志の消失ではなく、なにか違うもののような気がする。

と、再読した感想はこんなものです。

私は伊藤計劃が大好きで、彼の作品をもっともっと読んでみたかったと思うのですが、彼が提示したテーマは私の中にも通じるものでもあるので、一生かけて追いかけてみようとも思っています。

彼のなくなった年齢になったこの4月、また決意を新たにしました。

 

 

 

シノプシス:全世界で2700人もの人間が同時に自殺をした。幼なじみ零下堂キアンを目の前で失った霧慧トアンは同時多発自殺の背後にかつて自分とキアンと三人で世界にたいする小さなテロ、自殺を企てようとした御冷ミアハの意思を直感し、事件捜査にのりだす。

 

ログライン:

この世界はザ・メイルストロム「大災禍」に怯えている。

半世紀前、人類を滅亡の手前まで追いつめた世界的大混乱により、核戦争が勃発。

生き残った人々は政府を単位とする資本主義消費社会から構成員の健康を第一に気遣う生府を単位とする医療福祉社会へ移行した。

人々は霧慧ヌアザの考案した恒常的体内監視システムWATCH MEというナノマシンを人体にインストールし、病気・疾患とは無縁の生活を享受していた。

大災禍以後のこの世界はこのような生府を主体とする生命主義のもとに、人体は社会的リソースとされ、健康を害するアルコールやカフェインは害悪と見なされ、一人一人のプロフィールが拡張現実によって常に公開され、誰もがオープンソースである社会的評価を格付けされる安心で安全な社会を迎えようとしていた。

しかし、そんな個人の欲望が抹殺され、個人をリソースとみなすことに激しい嫌悪を抱く異邦人のような女性がいた。

彼女は霧慧トアン。

彼女は世界保健機構(WHO)の1部局であり、遺伝子操作技術の査察を旨とし、紛争地帯を飛び回る螺旋監察官だ。

現在は、生命主義の支配する日本から遠く離れたアフリカのニジェールで停戦監視の職務についている。

ニジェールではケル・タマシュクという民族がWATCH MEのインストールを拒み、ニジェール国家と対立しているのだった。

トアンは13年前の女子高生時代、一人の少女御冷ミアハと出会い、彼女に感化されることで、自殺を試みたことがあった。ケル・タマシュクと同じようにWATCH MEにより生府とオンラインでつながれることを拒み、WATCH MEを入れられる成人前に最後の個人としての選択、自殺をしようと誓いあった仲だった。

しかし、少女時代の自殺は失敗し、自殺を誘ってきたミアハは死んでしまった。トアンはその後、自責の念にかられながらも、ダミーであるマシンをインストールすることで、医療機器とつながることを拒み続け、日々アルコールをタマシュクと物々交換をし、みせかけの自由を楽しんでいた。

しかし、そのことが上司であるオスカーに知られ、日本に強制送還されてしまう。

母国で彼女を待っていたのはかつてミアハとともに自殺を試みて、生き残った零下堂キアンだった。

しかし、再会をしたのもつかの間、レストランでの食事の最中に、テーブルナイフを首に突き刺し、キアンは唐突な自殺をしてしまう。それもトアンの目の前で。

キアンが最後に口にしたのは、「ごめんね、ミアハ」だった。

 

自殺は生命主義の支配する社会にとって、もっとも破廉恥な行為である。

社会的リソースであり、社会の構成員ひとりひとりが社会のために生きる存在であるこの社会にあって、なぜ生命主義になじんでいたキアンが自殺をしたのか。

そしてなぜキアンはミアハの名を口にしたのか。

と、同時にキアンの自殺を同じような唐突な自殺が世界中で同時刻に5000件も起きていることが発覚する。

トアンは上司オスカーによって自殺を目撃した心的外傷からセラピーを告知されるが、トアンは螺旋観察官である自分が禁止されたアルコールを接種し、ダミーミーをインストールしていたことを暴露すると脅し、5日間の猶予をもらい、事件の捜査に乗り出す。

 

手がかりは、2700名に及ぶ自殺「成功者」の中で、唯一死ぬ間際に遺言らしきものを残したキアンだった。キアンの「ごめんね、ミアハ」

なぜ、13年後の今になって、ミアハの名を口にしたのか。

トアンは早速身分を隠し、螺旋監察官という権限でミアハの母に面会に行く。

世界中でおきた突発的同時多発自殺の背後にはミアハの存在を直感して。

ミアハの母によると、ミアハはチェチェンという紛争地帯の戦争孤児であり、少数民族の出身だったことがわかる。

ミアハは中学より自殺行為をするようになり、死んでしまったが、遺体は検体に回されたという。

検体についてはバグダットで研究をしている霧慧ヌアザが引き取ったという。

連絡は直接とれず、ヌアザの友人で東京にいる冴紀ケイタが知っている。

トアンは二人の名を聞いて驚く。

ヌアザは13年前に自分と母を捨て、バグダッドに研究目的で旅だって以来会っていない実の父親であり、冴紀ケイタは父の友人であり、幼少期からの知り合いだったからだ。

さっそく冴紀ケイタに会い、父の居場所を聞くと、わからないという返事をきかされる。

その代わり、バグダットでヌアザ野研究助手をしていたガブリエル・エーディンという女性の名を教えられる。

エーディンはSEC脳医学コンソーシアムのバグダット研究所におり、かつてヌアザと一緒に研究をしていたという。

彼らの研究は人間の報酬系の制御についてだった。

人間の意思、欲求のコントロールを目的とした医療分子の開発をしていたが、そこには脳血液関門という問題があり、コントロール不可能と思われていた。

制御ができれば、迷いも葛藤もなくなる。そんな調和(ハーモニー)は可能なのだろうか。

直接ヌアザに聞くために、バグダットに行くことにする。

 

そんなとき、キアンの死の直前の通話記録がみつかり、13年ぶりに聞くミアハの声が録音されていたことがわかる。

ミアハは言う。

人間は生きて、死ぬ。病気になる。

しかし、それをなくし、変わらないことを強要するこの世界が大嫌いだと。キアンもトアンもこちらにこなかったよね。

一緒に闘おうって言ったのに。

この体は自分の体だって証明したいのなら、今ここで死んで見せて。

そして、つづくキアンの「うん、ごめんね、ミアハ」

キアンは、死の直前、ミアハと通話をしていたのだ。

ミアハは生きているのだろうか。

 

バグダットに向かう途中で、トアンはインターポールのエリヤ・ヴァシロフという男性から接触をうける。

ヴァシロフによるとインターポールは1年ほど前から生府の有力な高齢者、医療産業複合体のトップからなるある組織を調査している。

彼らはWATCH MEとメディケアへ不正アクセスし、非常時にその「穴」を介したある技術を運用するという。詳細はまだわからないが、彼らはWATCH MEのサーバを通して人々の身体に不正アクセスできるのだという。目的は再び大災禍を起こさないようにするためだが、組織内の対立が今回の大量自殺事件の引き金になっている可能性があるという。組織名を次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループという。

ヴァシロフは螺旋監察官の協力を仰ぎたいというが、そのとき緊急放送があり、謎の犯人から今回の同時多発自殺は自分たちのしわざだと宣言する。

自分たちは人々を自由に殺害することができる。

だから一週間以内に、必ず一人は殺害すれば命を助けるという。そしてその犯行声明文を読み上げたキャスターを自殺させてみせる。

トアンは犯人の声にミアハの話法を感じ取る。

 

バグダッドについたトアンはガブリエル・エーディンに面会する。

エーディンもまた人間の脳における価値判断が非合理性に満ちたものであると説明をする。トアンはさきほどの犯行声明から、彼女の属するSEC脳医学コンソーシアムが人々の意識を自由に操り自殺に導く可能性があるのではないかと訪ねるが、エーディンはそこまでコントロールするにはいたってないと説明。

 

エーディンと分かれたあと、ヴァシロフと再会する。

彼は金の流れからエーディンの所属するコンソーシアムが次世代ワーキンググループの公然組織の一つだと説明する。

ホテルに戻ると、メッセージがあり、父と13年ぶりの再会をする。

ヌアザは次世代ワーキンググループは世界を制御できるまでになったと説明する。

人間の中脳において、ヒトは欲求・意志を発動することになり、その意志をコントロールするために自分たちは医療分子を発明した。

脳血液関門を突破できないとう問題は意図的に組織が流した情報であり、実際は意志さえもコントロールが可能になっている。しかし、人々は意志を支配されることを嫌悪するため、わざわざ大きく公開していないだけだったが、オープンソースである。

ヒトの意志を制御する技術は大災禍以降、人々が世界の安寧を守るために希求した結果だったが、実験の結果、意志の制御は意志の喪失につながった。

しかし、意志を喪失しても、ヒトは生きることが可能であり、そもそも意志がなくとも健全に生活していた民族がかつていたという。それが、チェチェンにすむ少数民族であるミアハの一族だった。

ミアハは意志のない民族だったが、紛争に巻き込まれ過酷な虐待から意志と機能を同一とみなせるものが疑似意志が発動した。

意志は目の前に差し出された報酬を最大限に見積もるという不合理ともとれる機能を持っているが、彼女の過酷な生活から、意志が発動したとヌアザは説明する。

しかし、彼女はその意志を持ったまま日本に養子に出されたが、そこで彼女を待っていたのは意志(欲望)を抹殺し、社会の資源(リソース)として生きるよう強要された世界だった。

ミアハは死にとりつかれるようになるが、時を同じくして、日本では自殺をする精神をやんだ子供たちが問題となる。

ヌアザは死にとりつかれた子供の筆頭としてミアハを実験体にし、意志のハーモニクスをめざし、報酬系の制御を行ったが、それによってミアハの意志が消失してしまった。

しかし、消失はしても、生きている状態ではあった。

調和のとれた意志を人間の脳に設定することを目的としたこの技術とシステムをハーモニープログラムと言ったが、ヌアザによるとこれは大災禍を防ぐ最終手段であり、発動予定はないものだった。

意志の消失は死と等しいのではないか。

だが、ミアハにその気があるのだった。

ミアハはなぜ大量の自殺者をだしたのか。

そこにヴァシロフがやってきて、ヌアザを殺害する。

ヴァシロフこそ、ミアハの属する次世代ワーキンググループの異端派だった。

穏健派のヌアザを殺害することで、ハーモニクスを発動させようとしていたのだった。

瀕死のヴァシロフからミアハがチェチェンに潜伏しているのを知ったトアンは単独でミアハを追跡する。

その頃、ヌアザの助手であったエーディンも殺害される。

チェチェンの山奥で、13年ぶりにミアハに再会したトアンは、ミアハが人々を自殺に駆り立て、社会的混乱を引き起こすことで、ハーモニープログラムを発動せざるを得ない状況をつくるのが目的だと告白する。

虐待により疑似意志を獲得し、日本につれてこられたあとは意志を究極的には抹殺されるような社会統合を強制され、ミアハがたどり着いた場所は、意志なんていらないというハーモニクスだった。

トアンは父とキアンの敵をうつために、ミアハを殺害するが、その後、世界的混乱は止めることができず、ついにハーモニープログラムは発動してしまう。

意志をなくし、すべての人間が今度こそ、社会に統合された世界は「わたし」の消えた究極的な平和な世界となった。