12月29日(火)映画レビュー:タイム・チェイサー

 何も起こらなかった過去へ

 

 タイムとかなんとかつくものに弱いです。
 でもタイムループものは本当に時間軸を図解しないと混乱するという。 プリデスティネーションしかり、ルーパーしかり。
 どちらも秀逸な作品でした。


 さて、当家本元タイムチェイサー。
 うーん、わだかまりがめいいっぱい残る物語です。
 それで、いいのか? 
 そのハッピーエンドでいいのか。
 むしろ、それはハッピーか?
 人間の行いなんて間違いの連続なんじゃないのか。 
 それでも明日は来るじゃないのか?
 すべて、なかったことにしていいのか?
 みたいな、わかりやすくたとえて言うならば「マトリックス・レボリューションズ」のラストを見たときに「現実の穴ぐらに戻るくらいなら、シム界で補食され続けてもよくない?」というディストピア発言を彷彿とさせるというか。
 あれ、ぜんぜんわかりやすくない?


 
 気を取り直して、
 以下ストーリー

 

 ハーレイ・オスメントこと9歳の少年エロルは物理学者の父を持つ。
 ある日、子煩悩であり仕事熱心な父が唐突に失踪する。
 父の主張理由は母方の祖父である大学である研究をすることだったが、祖父の与えた大学の地下の研究室から忽然と姿を消し、その後戻ることはなかった。
 それから12年の歳月が流れた。
 エロルは祖父が教授をつとめる大学で物理学を専攻し、天才的な成績からMITにも行く実力があった。
 しかし、父の失踪から母マリカは精神的に立ち直れず、自殺未遂を繰り返していた。
 そんな母との生活のなかで、幼なじみのグレイスはエロルの支えとなり、今は大学の学友であり、恋人でもあった。
 母をおいてMITには行けない。
 そう恋人に語る息子の言葉を聞いてしまった母親のマリカはその夜、自殺をする。
 母を失った孫を前に、祖父でありエロルの恩師でもあるサルは父であり、教え子でもあったゲイブがタイムマシンで過去に行って戻ってこられなかった真相を語る。
 エロルは母と失われた父の不在の子供時代を取り戻すために祖父とともに父の偉業をひきつぎ、父を取り戻そうと研究を始める。
 しかし、そんなとき恋人のグレイスが妊娠していることがわかる。
 過去に戻れば、二人の恋人同士である現在も二人の子供も失われてしまう。
 いろいろなものをなくしても、二人の愛が芽生えたこの現実、今を失いたくない。
 そう説得するグレイスを前に心がゆらぐエロル。
 しかし、子供を流産して失い、エロルはやはり過去を取り戻すしかないと堅い決意をする。

 

 

 レビュー
 物語のラスト、エロルは過去にもどり、父が過去に戻った理由を知り、そこで強盗に殺されて未来に戻れなくなるのを阻止する。
 そのために、父親が仕事よりも家族の幸せを説得するように自殺まではかります。
 父であるゲイブは自分の仕事への終着を捨て、現在の時間軸に戻ります。
 すべてがなかったことになった時間軸へ。
 朝、何事もなく帰宅し、妻と息子に迎えられ、困惑したようなゲイブの表情。
 これが、なんともリアルです。
 なぜならその彼の表情こそ観客そのものの心情とも言えるからです。
 ゲイブにしてみれば、自分が昨日から今日へ旅先から自宅へ帰還しただけにも関わらず、彼の脳裏には12年後の自分の息子から説得されたもう一つの未来が頭に残っています。
 その未来は信じられないことに、自分が過去で殺され、そのせいで妻のマリカが自殺をし、息子のエロルが父親不在の子供時代を過ごしたというものです。
 そんな壮大にして不幸な未来が起こるんだと言われても、納得できなかったゲイブの前で未来の成人した息子は目の前で頭を打ち抜き、ゲイブの迷いを排除します。
 命と引き替えに。

 うん、わからなくもないです。
 つまり、家族至上主義。
 それこそがハッピーエンドなわけです。
 でも、そうなんでしょうか。
 この物語は科学と家庭。仕事と家族を対立させる構造で描いています。
 その基本軸がもう、逃げ場のない閉塞感を見る側に抱かせます。
 ゲイブは家族持ちながら、科学の徒です。
 過去にタイムスリップして、アインシュタインに会うことで、原爆を阻止しようとします。
 しかし、その行為のせいで残された家族には悲劇が待っています。
 その悲劇を止めるために研究をはじめたエロルを今度は恋人のグレイスが、今の私たちの家族を大事にして、と生まれてくる子供を盾にとって引き留めようとします。
 それを続行することになった理由は、エロルが子供を失ったからです。
 ここでも家族の別離が引き金となって物語りを牽引していきます。
 そして、エロルは最終的に家族を取り戻すために、父親に喪失の痛みを思い出させるために自分の頭を打ち抜くのです。
 そして、父親は彼の思い通り家族を大事にするため、過去から何もせずに戻ります。
 物理学者の父親もまた家族を選んだのです。
 何もおこらなかった過去と未来を選んだのです。
 しかし、それが彼の困惑した表情に現れたとき、そこには家族にはすべてを優先させる重みがあるというテーゼが浮かび上がってきます。

 仕事と家族、どっちをとるの?
 そんな選びようがない次元の狭間に横たわる命題に夢も喜びも奪われた人々の物語、それが「タイムチェイサー」なのかもしれません。

 

 

 蛇足
 この映画では例のハーレイ君がすっかり大人もとい親父になっています。
 下膨れのいかにも物理好きなぽっちゃり男子(もとい親父)になっています。
 そのくせ表情がシックスセンスのときのままなんですよ。
 これこそ、シックスセンス並の驚異です。というか脅威。
 顔が19歳、肉体が40代。
 なんだか、10年もタイムスリップしてしまったようなそんな気にさせられるハーレイ・オスメント氏の大人ぶり。
 そう、子供は必ず大人になるのです。