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12月25日(金)(映画)レビュー アンダーグラウンド

 

 役所の仕事納めは28日です。
 なので、あと一日仕事が残っているのですが、世間様曰く「もっと仕事しようぜ」だそうです。
 というわけで、28日は上司が手打ちそばをごちそうしてくれる(課内全員分)ので、それを食べに仕事に行って、午後は有給をとります。
 はあ、やっと休める。

 

 というわけでアンダーグラウンド(95)
 映画レビューです。
 3時間あります。
 監督はエミール・クストリッツア。
 あまりのおもしろさに長さを感じない!というわけではなくて、長いけど面白い。
 面白いけど、やっぱり長い映画。
 タイムラインは第二次大戦中から1992年まで。

 そりゃ、長いわ。

 

 ★ストーリー
 第二次大戦末期のユーゴスラヴィア
 ベオグラードでは、チトー率いるパルチザンナチスに抵抗していました。
 主人公マルコは共産党員で、親友のクロを仲間に引き入れ、詐欺や盗みを働きつつも楽しく暮らしていました。
 そこに登場するのがナタリアという舞台女優です。
 彼女はナチスの将校フランツに熱を入れていましたが、横恋慕するクロが彼女をフランツから引き離して無理やり結婚をせまります。
 しかしフランツの反撃により、クロはつかまってしまいます。
 マルコはクロが捕まっている病院に潜入し、ナタリアとともにクロを救出しますが、クロは逃げる途中で重傷を負います。
 マルコはブラスバンドや家族や友人たちを地下に匿い、そこに怪我を負ったクロも隠します。

 

 1944年、連合軍の進撃により、ナチスは瓦解し、ユーゴスラヴィアはチトー政権により国家を持ち直していきます。
 マルコはチトーの側近としてナタリアを妻として、実力を発揮していきます。
 しかし、マルコには重大な秘密がありました。
 第二次大戦中、地下に匿った仲間と親友のクロを25年もの間、そのままにし、未だに戦争が続いているとと嘘を突き通し、地下で武器の製造を指示していたのです。
 時々自ら空爆のサイレンを鳴らし、クロにはチトーからもらった時計を差しだし、最後の進撃に備えるために地上にでるのは危険だと嘘を突き続けていました。
 地下の大時計は微妙にずらされ、地上での25年を20年だと偽っていました。
 一方、地上ではマルコをモデルにした映画製作がはじまっていました。マルコは英雄クロの銅像をつくり、世間にはクロが死んだことにしていたのです。
 そんなマルコとは逆に、ナタリアは彼の妻となり20年もの間自分と世間と地下の仲間、そして今も今も自分を愛しているクロを偽りつづけることに精神的限界を感じていました。
 そんなとき、クロの息子イヴァンが地下で結婚式をあげることになりました。
 酒宴でやぶれかぶれになるナタリアをなだめているところをクロに見咎められたマルコは銃を差し出され、親友の恋人を奪った罪として自分の右足を打ち抜きます。
 同時にマルコの弟イヴァンの飼っているチンパンジーのソニが地下に設置してあった戦車にはいりこみ、射撃をはじめます。
 地下世界は崩壊し、ソニは自分の打った砲撃に驚き、逃げ出します。それを追いかけるイヴァンとともに、クロと息子のヨヴァンも地上に飛び出します。
 すでに戦争から25年が経過しているとも知らない、クロとヨヴァンはマルコをモデルにした映画撮影所に迷い込みます。
 20年前と変わらないナチスの将校フランツの俳優を憎き本物だと思いこみ、殺害するクロ。
 一方で、自分の目の前から消えた新郎を思い、ヨヴァンの新妻エレナは井戸に身を投げてしまいます。
 地上にでたヨヴァンもまたドナウ川の流れに飲み込まれ、そこで花嫁姿をしたエレナと再会します。
 マルコとナタリアは嘘と欺瞞から逃れるために地下を爆破し、政治の世界からも姿を消します。チトー大統領の死により、ユーゴスラヴィアは激しい内戦がはじまろうとしていました。

 

 1992年、マルコの弟イヴァンはドイツの精神病院に入院していました。20年間地下で今が第二次大戦続行中だと信じてきたために凶人と思われていたのです。
 医者はそんなイヴァンに戦争がすでに集結し、兄のマルコと妻のナタリアが武器商人として国際指名手配されているという事実を告げます。
 兄が自分をだましていたことにショックを受けたイヴァンはマンホールをこじあけ、地下に逃げ込みます。
 すると、そこにはパルチザンが掘った地下道路が広がり、そこを国連や難民達が縦横無尽に移動をしていました。ひとりぼっちになってしまった地下で、イヴァンはチンパンジーのソニと再会します。
 ソニの後を追いかけ、地上にでると戦時中の郊外の村にたどりつきます。
 そこで兄マルコを見つけたイヴァンは怒りのあまり、杖でマルコを殴り殺してしまいます。
 罪の意識からイヴァンは朽ち果てた教会で首をつってしまいます。
 一方、クロは内戦を戦う指揮官として砲撃を繰り返していました。
 戦いながらも息子のヨヴァンを探していたのです。
 そんなとき、部下から武器商人が2名捕まったと連絡が入ります。
 その武器商人こそ、マルコとナタリアでした。
 彼らは商談に失敗し、兵士に捕まっていたのです。クロの指示により、二人はあっけなく射殺され、火をかけられます。
 クロが現場にたどりつき、二人のパスポートを見ると、そこにはマルコとナタリアの写真がありました。
 すでに火の車となった車いすには焼け焦げた二人の遺体が乗り、ぐるぐると駒のように回り続けています。
 クロは深い後悔とともに、地下に降りていきます。
 そこで井戸をのぞくと、息子のヨヴァンが見えます。
 クロは井戸に飛び込むと、井戸はドナウ川につながっており、彼の周りにかつての仲間達が集まってきます。

 ドナウ河の岸辺、そこではヨヴァンの結婚式が行われていました。
 ヨヴァンを生んだときになくなった妻、そして地下で一緒だったブラスバンド
 そしてマルコの弟イヴァン。そして少し先の木の下からおずおずとマルコと妻のナタリアがゆっくりと近づいてきます。
 再会、そして謝罪。
 彼らの浮かれ騒ぐ岸辺はいつの間にか陸から離れ、河を漂っていきます。
 むかし、あるところに国があった。

 END

 


 ★レビュー
 私がこれをはじめて見たのは大学生のころでした。
 中学生のころに同監督の「黒猫・白猫」が地元で単館上映していて、親友と見に行ってました。
 当時は監督のことなど爪の先ほども気にしておらず、もぱら俳優のことしか追ってなかったので、このアンダーグラウンドと「猫」が同じ監督だとは気がつきませんでした。
 いま見ると、完全に同一の異彩を放っているわけで一目瞭然なわけですが。

 で、なんというかですね、この映画ですが、私の中でオールタイムベストかもしれませんね。
 再見してほんとうにそう思いました。
 はっきり言って、ノスタルジーに弱いんですね。私は。
 そのベクトルで「ニューシネマパラダイス」なんかもベスト3入りですよ。
 ほんと、号泣するのがわかっているので、10年に一度しか見られないんですが。
 
 さて、この映画はおとぎ話のような切なさ漂う亡国のお話です。
 ユーゴスラヴィアは今は地図にのっておらず、この物語の主要な舞台であるベオグラードは現セルビア共和国の首都です。
 ユーゴの歴史は一口で語れないほど複雑ですが、あえて一口でいうと、他民族国家が、外的要因としてはソビエトの崩壊、内的要因としてはチトー大統領という求心力の喪失によって、各民族が独自の路線を歩もうと、国家を主張しユーゴが7つに分裂したということです。
 現在のコソボスロベニアマケドニアクロアチアボスニアセルビアモンテネグロが元ユーゴです。
 島国に住んでいる日本人としては考えにくいのですが、自分の国がなくなるというのはどういうことなんでしょうね。
 国家がなくなるといってもその歴史が完全に分断されることはないのだと思いますが、町村合併で自分の住んでいた町が宇都宮市に併合とか、そういうレベルではないのはわかります。
 とくにベオグラードセルビアの首都であり、隣国ボスニアとの内戦で国際的にも避難を浴び、内戦終結当初はボスニアの首都サラエボの繁栄とは比べるべくもなく退廃してしまいました。
 であるならば、亡国の首都というのは、どれほどのものを背負っているのか想像もつきかねます。
 まあ、そういう暗くてヘビーな犠牲と悲しみを抱えた今はなきユーゴなのですが、この映画はそれを背景にしつつも基本は男二人と女一人の物語であるわけです。
 そして騒がしいユーゴのブラスバンドに、三人が奏でるもの悲しいジプシーの歌。
 ちりぢりになった人々が一番幸せな時に終結する夢のような魔術的なラスト。
 悲しいのに、なつかしいノスタルジア
 歴史もドラマも音楽も映像も全部が詰まった、そんな映画は私のオールタイムベストです。。

 ★備考
 東欧の民主化というのを探っていくと、旧共産圏時代の異物がいろいろ出てきて興味深いと同時に怖いです。
 多くの場合は帝国として他民族を強力な権力で押さえていた時代から、それが揺らぎはじめたときにこそ、無理な政策が横行します。

 考えてみると、インターナショナル、グローバリゼーションが、ローカリゼーションにとって替わっただけなのかもしれません。

 しかし、この物語の奏でる本当の痛みについては、私は一生理解できないのかもな、と思います。

 ただ想像することしかできない痛みと幸福、それがこの魔術的なおとぎ話なのです。